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後鼻漏の原因と治療方法

後鼻漏とは? 鼻水が喉に流れる
原因や適切な治療法を紹介

後鼻漏粘りのある鼻水が喉の奥を流れる、痰(たん)がからむ咳が止らない、などの不快な症状を感じる場合、それは後鼻漏(こうびろう)かもしれません。
病的な意味での後鼻漏は、副鼻腔炎(蓄膿症)やアレルギー性鼻炎に伴い、粘調なあるいは膿性な鼻水が喉の方へと流れることを言いますが、広い意味で副鼻腔炎に伴う後鼻漏以外に生理的な分泌物や上咽頭の炎症に伴う分泌物も後鼻漏に含む場合もありますし、さらには何も流れていないのに流れている感覚や喉に貯まる感覚のみがある後鼻漏感と呼ばれる症状もあります。
ちなみに耳鼻科外来を受診する患者さんの内、後鼻漏を訴えるのは16%おられ、実際に後鼻漏が確認できるのは約10%、 視診で確認できない後鼻漏、いわゆる後鼻漏感は約5%であったとの報告もあります。(参考文献❶)

1.後鼻漏とは

後鼻漏とは通常、鼻の中で過剰に分泌された鼻水は、鼻の穴から前方へ「鼻水」となって出ていきます。
後鼻漏は、鼻水が外に出ずに鼻の後方から喉のほうに流れ落ちる症状です。健康な状態でも、1日作られている鼻水(2〜6リットル)のうち30%(0.6〜2リットル)は鼻から喉に流れ、無意識に飲み込んでいるといわれています。そのために、後鼻漏自体は自然な症状なのです。
しかしながら、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などで喉に流れ落ちる鼻水の量が増加したり、上咽頭炎で喉の奥に粘液が張り付いたりすると病的な後鼻漏になります。図:右中鼻道から後鼻腔へ流れる後鼻漏

2.後鼻漏に伴う症状

2-1.口の中がネバネバ
する・つばが増える

後鼻漏は量が少なければ気にならないものです。けれども、副鼻腔炎などで鼻水の量が増えると喉に流れ落ちてくるのがわかるので不快感をおぼえます。症状が重くなると、口の中がネバネバする・つばが増えるなどの感じにも悩まされるようになります。

2-2.痰混じりの咳が出る

夜、あおむけになって寝ている間に鼻水が鼻の奥から喉にかけてたまります。そして、たまった鼻水は粘り気が増して喉に張り付くのです。そのために、朝、起きたときに痰(たん)混じりの咳が多くでるようになります。

2-3.喉に炎症が起こる

粘度が高くなった鼻水が、喉の奥に張り付いて鼻の奥や喉に炎症を起こします。
また、激しい咳を繰り返すことにより声がかすれてしまうこともあるのです。さらに、慢性的に炎症が続くと頭の重さや頭痛などに悩まされます。

2-4.口臭の原因になる

鼻と喉、口は1つにつながっています。後鼻漏で常に鼻の奥に鼻水がたまっていると鼻や口からいやな臭いが漂うこともあります。
口臭や鼻臭は自分ではなかなか気がつかず、家族に指摘されて初めて気がついたというケースもあります。

2-5.食欲不振や不眠、
集中力の低下

後鼻漏が重症になると、常に鼻を飲み込まなくてはならない不快感から、食欲不振や夜眠れないなどの症状に悩まされることもあります。
また、不快感がある後鼻漏を放置していると、咳や痰(たん)・喉の痛み・口臭などが常に気になってしまいます。そのために、仕事や勉強に集中できなくなる、人と会うのがおっくうになるという人も多いようです。

3.後鼻漏の原因と治療

後鼻漏の原因と治療後鼻漏は、健康な状態では気がつきません。けれども、鼻水の量が増えるとさまざまな症状を引き起こします。どのような原因でどのような治療が必要でしょうか。

3-1.副鼻腔炎

後鼻漏の原因で主なものは副鼻腔炎です。もともと狭義の後鼻漏は副鼻腔炎に伴って鼻からのどへ落ちる病的で粘調な分泌物を指していました。
これはほぼ慢性的に常に流れていますのでファイバーなどで鼻腔を観察すると確認できることがほとんどです。当院では後鼻漏で悩まれる方には必ずファイバーで確認してご本人に見ていただきます。その上で副鼻腔炎の存在と程度をCTでも検討します。
軽度の後鼻漏や慢性的でない場合にはレントゲンでは判断できず、CTによって初めて診断できる場合もあります。特に当院でも採用している坐位で撮影するコーンビームCTでは微妙な所見にも有効と報告されています。(参考文献❷)

副鼻腔炎の治療

A:薬物療法

急性の副鼻腔炎では抗菌力の強い抗生剤で比較的速やかに後鼻漏が改善する場合が多いです。
副鼻腔炎が3ヶ月以上も続く慢性副鼻腔炎になるとマクロライド系の抗生剤を少量で数カ月服用する治療法が一般的です。
少量ですので長期間の服用でも副作用は起こりにくいとされています。また、少量投与の場合は抗菌力よりもサイトカインの抑制などによる副鼻腔粘膜の正常化を促す作用が高くなります。

B:副鼻腔処置、ネブライザーネブライザー・鼻洗

鼻にたまっている鼻汁を掃除した後に抗生剤などの薬液を霧状にして鼻から吸引するネブライザー療法はもっとも一般的な外来処置です。ただ高度な副鼻腔炎の場合は効果がでにくいこともあります。また、生理食塩水で鼻腔を洗浄する方法もセルフケアとしては有効です。

C:手術療法

それでも副鼻腔炎が良くならない場合には手術が必要な場合もあります。最近の手術は日帰りや一泊の短期で行える場合もあり、以前に比べると痛みや腫れ、出血なども少なくなっています。
詳しくはこちらをご覧下さい。

3-2.アレルギー性鼻炎

アレルギー性鼻炎の場合はさらさらとした鼻水が前の方に流れるのが一般的ですが、アレルギー性鼻炎の方は正常の方と比べると鼻汁の量が多く、粘り気を伴うムチンという物質が増える事も知られており(参考文献❸)、特にアレルギー反応が強く起こると下鼻甲介が腫れ、下鼻甲介の後方で分泌された鼻水が前方が塞がっているために後方へと流れて後鼻漏になる場合があります。
近年ではアレルギー性鼻炎による後鼻漏の頻度が高まっていると報告されています。(参考文献❹,❺)

アレルギー性鼻炎の治療

A:薬物療法

アレルギー性鼻炎の治療としてよく用いられるのは抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬などの飲み薬や血管収縮剤やステロイドを含んだ点鼻薬です。
いろいろな種類の薬があるのでご自身にあった薬を探せば症状が改善しますが服用を中止すると元に戻ります。
血管収縮剤は速効性がありますが長期連用すると逆に薬剤性鼻炎となって鼻詰まりが悪化する場合もあります。
ステロイド点鼻薬はその心配はほとんどありませんが、速効性には乏しく、点鼻そのものが刺激となってくしゃみを誘発する場合もあります。

B:免疫療法

アレルギー性鼻炎に対する根本的な治療が期待できる免疫療法として舌下免疫療法(SLIT)が一般の診療所でも行えるようになりました。(当院では施行しておりません)
この治療法の特徴として

  • 有効率は約6~7割(1割は症状が無くなり、5割は症状が半分くらいに軽くなり、2割は症状が軽くなり、残り2割は変わらない)。
  • 注射ではないので痛くない。皮下免疫療法と比べると重篤な副作用(アナフィラキシーショック)などの発現率が低い

などがあります。
ただし

  • βブロッカー使用中、重症の喘息、開始時に妊娠している方は適応外
  • β花粉の飛ぶ季節以外でも毎日、最低2年間(できれば3年以上)行わなければ十分な効果は期待できない。
  • β効果発現に数ヶ月から半年かかる。

などの注意点もあります。唯一の根治が期待できる治療法ではありますが、花粉時期以外も毎日服用の必要があり、根気のいる治療でもあります。

C:手術療法

アレルギー性鼻炎に対する手術療法としてはレーザー手術や後鼻神経切断術などがあります。

・レーザー手術

レーザー手術はアレルギーの反応の場である下甲介粘膜を焼灼して症状を軽減させる方法ですが鼻詰まりに対する効果に比べると後鼻漏を含む鼻水に対する効果は弱い傾向にあります。また数年で効果が減弱します。
詳しくはこちらご覧下さい。

・後鼻神経切断術

後鼻神経切断術は鼻汁を分泌する神経を切断する方法ですから鼻汁を抑制する効果は最も高い手術です。後鼻漏の原因としてアレルギー性鼻炎による鼻汁分泌過多がある場合は有効な方法といえます。ただしアレルギー性鼻炎に伴う鼻汁は水様性で前に流れる事が多いので必ずしも後鼻漏が減少するとは限りません。
詳しくはこちらご覧下さい。

3-3.鼻の腫瘍

鼻腔(びくう)内に腫瘍ができてしまうと、本来なら鼻の外に出るはずの鼻水が喉のほうに流れ落ちるようになる場合があります。腫瘍の場合は、後鼻漏以外にも気になる症状があるはずなので早めに専門医の診察を受けてください。

3-4. 上咽頭の炎症

鼻の奥で喉の上方に当たる部位を上咽頭と呼びます。この部位は口の中の扁桃腺と同じような扁桃組織やリンパ組織が存在します。細菌やウイルスなどが鼻から侵入するとこの部位で捕まって炎症をおこします。その時に上咽頭の粘膜が腫れたり粘調な分泌物が付着したりします。これが喉に流れて後鼻漏と感じる場合もあります。
1%塩化亜鉛溶液を上咽頭に塗布すると、疼痛とともに少し出血する場合もありますが、同時にこれが診断と治療にもなり得ます。1%塩化亜鉛溶液の塗布を定期的に繰り返すことによって上咽頭炎が治まり疼痛もなくなってくる場合もあります。
それ以外には生理食塩水による鼻洗浄で上咽頭まで洗浄するのも有効です。
また、近年注目されている逆流性食道炎も胃酸分泌過多、およびその逆流によって上咽頭炎が起こる場合もあり、その場合はプロトンポンプインヒビターが有効な時もあります。

3-5. 加齢性変化

高齢になると腺分泌の低下,粘膜の萎縮,線毛機能の低下鼻粘膜の過敏性充進などで鼻が乾燥傾向になり,粘性を増した鼻汁が咽頭へ流れやすくなりますが、同時に高齢者では後鼻漏を訴える症例でも,他覚的に後鼻漏を認めない“後鼻漏感”を訴える症例も少なくないと報告されています。(参考文献❻)
高齢者における後鼻漏の対応は困難ですが、唯一行いうる対応は,口腔咽頭の乾燥を改善することであり、唾液分泌促進作用のあるニザチジンや漢方製剤の麦門冬湯などは比較的使用しやすいとされています。

後鼻漏に関するQ&A

後鼻漏って何ですか?

後鼻漏(こうびろう)とは、鼻の奥の粘膜から分泌される鼻汁が喉に流れ込むことで、鼻からではなく喉から鼻へ逆流する現象のことを指します。一般的に、鼻づまりや鼻水といった症状と共に現れることがあります。
ただし実際には後鼻漏はなくても後鼻漏があるように感じる後鼻漏症候群があります。その中には全く病的ではないものも含まれます。

後鼻漏の主な原因は何ですか?

後鼻漏の主な原因は、鼻や副鼻腔の炎症やアレルギー性鼻炎、副鼻腔のポリープ、鼻中隔彎曲、または鼻の手術後などが考えられます。これらの状態によって、鼻の粘膜が過剰な鼻汁を分泌し、喉に流れ込んで後鼻漏が発生することがあります。
後鼻漏症候群の中には上咽頭炎や更年期障害なども含まれます。

後鼻漏の症状はどのようなものがありますか?

後鼻漏の主な症状には、鼻が喉に流れる感じ、鼻の奥に何かが貯まっている感じ、喉に詰まった感じや喉の違和感、鼻の奥や喉の奥からの嫌な匂いなどが挙げられます。
また、後鼻漏が原因で喉の炎症や喉の咳が続くこともあります。

後鼻漏の診断方法は何ですか?

後鼻漏の診断には、患者の症状や経過を詳しく聞くと共に、鼻の内視鏡検査や副鼻腔CTスキャンなどの画像検査が行われることがあります。また、耳鼻咽喉科専門医による診察が行われ、原因を特定するための適切な検査が実施されます。

後鼻漏の治療方法はありますか?

後鼻漏の治療には、まず原因に応じた治療が行われます。副鼻腔炎があれば薬物療法やそれが無効な場合は副鼻腔炎手術、アレルギー性鼻炎や炎症によるものであれば、抗アレルギー薬や抗炎症薬の処方や後鼻神経切断術があります。上咽頭炎がある場合はいわゆるBスポット療法、などが必要な場合があります。正確な治療法は個々の症状と原因によって異なりますので、耳鼻咽喉科専門医に相談して適切な治療を受けることが大切です。
ただし後鼻漏を訴える方の半分近くは何も病的所見が認められない場合があります。内視鏡やCTにて異常が認められない場合は正常の鼻汁分泌を異常に感じているだけの場合も多いので治療対象にならない場合もあります。

4.まとめ

いかがでしょうか、後鼻漏の症状や原因、対処法などがおわかりいただけたかと思います。
後鼻漏自体は通常なら気にならない程度の自然現象です。しかしながら、鼻炎などで鼻水の量が増えると、鼻や喉に不快な症状を感じるようになり日常生活に支障をきたします。不快感に悩まされながらも原因がわからず悩んでいる方も少なくありません。

  • 粘り気のある鼻水が喉に落ちて気持ち悪い
  • 咳や痰(たん)が止らない
  • 口臭や鼻臭がする

などの症状を感じたら、耳鼻咽喉科の診察を受けることもおすすめです。

参考文献
  1. 後鼻漏症状に関する診療についてのアンケート調査 中 下 陽 介
    日鼻誌 50⑵:113~119,2011
  2. コーンビーム CT を活用した鼻副鼻腔疾患の新しい診断法 御厨 剛史
    日本耳鼻咽喉科学会会報 123巻2号 Page130-138(2020.02)>
  3. アレルギー性鼻炎で漿液性鼻汁がでることはわかりますがなぜ粘性鼻汁もでるのですか?野島 知人 
    JOHNS vol.36no.9  Page1162 2020 08
  4. Irwin RS
    Postnasal drip and cough. Clin NotesRespir Dis l8111-12,1980.
  5. 治りにくい後鼻漏 三輪 高喜  耳喉頭頸 83(13)
    1007-1011,2011
  6. 中村英生・他:高齢慢性副鼻腔炎の検討.日鼻誌 33
    310-314,1994

 

監修医師

医院名 医療法人 川村耳鼻咽喉科クリニック
院長名 川村繁樹
資格 医学博士
関西医科大学耳鼻咽喉科・頭頚部外科 特任教授
身体障害者福祉法第15条指定医
川村繁樹