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好酸球性副鼻腔炎

好酸球性副鼻腔炎

20年ほど前から難治性の副鼻腔炎として注目されているのが好酸球性副鼻腔炎です。これは従来の副鼻腔炎が細菌などの病原菌感染が主な原因でであったのに対して、自身の鼻汁中に増加している好酸球(白血球の一種)が主体となって炎症を起こしているものであり、従来の副鼻腔炎に比べて治りにくいことが知られています。

この病気の特徴として

  1. 成人発症、両側性で多発性のポリープ
  2. 嗅覚障害の合併が多い
  3. 粘調な鼻汁が多い
  4. 喘息の合併が多い
    (アスピリン喘息含む)
  5. ステロイドの全身投与が有効
  6. マクロライド系抗生物質の抵抗例が多い
  7. 篩骨洞病変が高度の例が多い
  8. 難治例が多い

などがあります。

この病気の本質はまだまだ未解明の部分が少なくありませんが、従来の副鼻腔炎と異なりマクロライド系抗生剤はあまり効かないと言われており、診断がつかないまま漫然と治療されたまま悪化している患者さんをよく見かけます。

体質的な疾患であり、難治性ではありますが、内視鏡下手術を施行し、術前後にステロイドの内服や局所投与、鼻腔の洗浄を行い、好酸球を含む鼻汁を洗い流す治療が有効とされています。手術も換気をつけるだけではなく、固有鼻腔と副鼻腔を大きく開放し、病的粘膜をできるだけ除去することが重要です。

この疾患の患者さんの多くは気管支喘息を合併しています。そうでない方も喘息の前段階であったり、呼吸機能検査をすると喘息であることが判明する場合が多いとことが知られています。喘息も好酸球副鼻腔炎も気道の好酸球性炎症という点では同じであり、同じ病態が上気道と下気道で起こっていると解釈されています。その意味では喘息と同様にステロイドなどで炎症をコントロールする事が重要ですが、手術療法が果たす役割は大きく、鼻閉や後鼻漏が少なくなり喘息症状が著明に改善する場合も少なくありません。

当院院長は以前からこの好酸球性副鼻腔炎の臨床経験は多く、2011年日本鼻科学会でのシンポジウム:「好酸球性副鼻腔炎の診断および評価基準作成の試み」に唯一開業医として選出されました。
また2013年には論文「診療所における好酸球性副鼻腔炎の診断」参考文献❶を報告しており、2015年には副院長が「好酸球性副鼻腔炎に対する内視鏡下副鼻腔手術の有効性」参考文献❷を発表しております。
当院では好酸球性副鼻腔炎の患者さんも多数受診されますが、軽症の場合は薬でコントロールできる場合もあり、重症の場合は1泊2日の短期入院手術を行っております。この疾患は術前のコントロール、術後管理が重要ですので、経験、知識の豊富な医師への受診をお勧めします。

アスピリン喘息

アスピリン喘息はアスピリンのみならず非ステロイド系解熱鎮痛薬(NSAIDs)により発作が誘発されるという特徴を持ち、喘息発作、アスピリン過敏症、鼻茸を3主徴とする疾患です。好酸球性副鼻腔炎と同様に成人で発症することが多く、成人喘息の4〜30%、中等症以上では喘息の10%以上に認められると言われています。
この疾患も好酸球性副鼻腔炎と同じ病態と考えられており、治療法も前述の好酸球性副鼻腔炎とほぼ同じですが、副鼻腔炎も重症で再発率が高い事が知られています。
ただ、手術によって鼻閉や喘息症状が改善し喘息薬の使用量が少なくなることも経験しています。鎮痛剤以外にも発作を誘発させる物質もあり、過敏反応は後天性ですので若いときに大丈夫だったから安心だとも言い切れません。歯科など鎮痛剤をもらうときに注意も必要ですし、湿布薬で塗り薬でも反応は起こりえます。その意味ではこの疾患も経験、知識の豊富な医師への受診をお勧めします。

難病指定について

 

1)診断基準・重症度を
満たすことが必要

2015年7月から好酸球性副鼻腔炎が一定の診断基準を満たせば難病として認定されることになりました。参考文献❸

診断基準

JESREC スコア
1~4の合計(JESRECスコア):11点以上を示し、鼻茸組織中好酸球数が70個以上存在した場合を確定診断とする。

  点数
病側:両側 3点
鼻茸あり 2点
CTにて篩骨洞優位の陰影あり 2点
末梢血好酸球(%) 2< ≦5:4点
5< ≦10:8点
10<:10点

重症度分類

1)又は2)の場合を対象とする。

1)重症度分類で中等症以上を対象とする。
2)好酸球性中耳炎を合併している場合

重症度分類について

CT所見、末梢血好酸球率及び合併症の有無による指標で分類する。

A項目:①末梢血好酸球が5%以上 ②CTにて篩骨洞優位の陰影が存在する。
B項目:①気管支喘 ②アスピリン不耐症 ③NSAIDアレルギー診断基準JESRECスコア11点以上であり、かつ

  1. A項目陽性1項目以下+B項目合併なし:軽症
  2. A項目ともに陽性+B項目合併なし or A項目陽性1項目以下+B項目いずれかの合併あり:中等症
  3. A項目ともに陽性+B項目いずれかの合併あり:重症

上記の基準で好酸球性副鼻腔炎と診断され、重症度が高ければ(原則として中等症以上)難病に認定され、医療費助成をうけることができます。

2)自己負担上限額にも
所得によって差があります

難病に指定されればこの疾患に関わる検査、手術、投薬などの治療費の自己負担額が所得に応じて軽減されます。(下記参照)
患者さんの自己負担上限額について

医療費助成における自己負担上限額(月額)

3)施設・指定を受けた
医師・施設でないと申請
できません

診断基準にはCT検査、血液検査、鼻粘膜採取が必要であり、当院のようなCTを備え、手術を行う医療機関でないと診断できません。
また診断書作成には指定された施設で指定された医師の診察を受ける必要があります。
当院はこれらの指定を受けておりますのでお気軽にお問い合わせ下さい。

4)更新が必要、難病指定
からはずれることも

また、この難病指摘は原則的として1年ごとに更新する必要があり、直近6ヶ月以内のCT所見、血中好酸球値が基準を満たしていることが必要です。
このCT所見や好酸球値が基準を満たさない場合は状態が改善しているとみなされ指定からはずれる場合もあります。
ただし、その後の経過で再発すれば再度申請して難病指定を受ける場合もあります。

5)今後は再発症例しか
認められないかも

現時点ではJESRECスコア11点以上であり鼻茸を外来で採取して好酸球数が基準を満たせば難病の申請が可能です。
ただ、当初の予想をはるかに上回る申請があったようで、あくまでも私の予想ですが、今後は根治術を行っても再発して、再び根治術が必要な難治例のみが対象となる可能性があります。

好酸球性副鼻腔炎の保存療法

 

薬物療法

ステロイド内服

好酸球性副鼻腔炎にはマクロライドの少量療法はあまり効きません。
ただ、診断確定のためには組織採取が必要であり、疑いの段階では非好酸球性と同様にマクロライドを使用する場合も少なくありません。それで効果が乏しければステロイドなどを使用します。ステロイドを数日間内服して効果があれば好酸球性の可能性が高くなりますし、鼻水が減り、鼻づまりも改善し、臭いが良くなったりします。
ただ、ステロイドの内服はあまり多くの量を長期続けると血糖値や血圧が上がったりご自身のホルモンの量が減ったり、いろいろと副作用が出る場合もありますので最小限にします。中止して副鼻腔炎が悪化すれば再度投薬も検討しますが副作用との関連でその量や期間には慎重を要します。

その他の内服

抗ロイコトリエンや抗ヒスタミン剤の内服を行う場合もあります。後者はアレルギー性鼻炎を合併している場合には有効ですがどちらも特効的な薬剤ではありません。

点鼻薬

多くはステロイドを含んだ点鼻薬を使用します。液状や粉末スプレーがほとんどですが、これらも基本的にはアレルギー性鼻炎用の薬で好酸球性副鼻腔炎の根本治療にはなりません。ただ、効果があるとポリープが少し小さくなって鼻詰まりが改善する場合があります。
目薬状のステロイド点鼻薬もあります。これは主に嗅覚障害用で仰向けに寝て顎をあげ気味にして鼻に沿うように滴下します。そうすると嗅裂に届きやすくなり、嗅裂の粘膜腫脹を減らして嗅覚を改善させる効果が期待できます。ただしポリープが大きくて完全に嗅裂が閉じているような場合はあまり期待できません。そのような場合は手術で嗅裂を広げてから行う方が効果的です。

鼻洗浄

鼻腔内を生理食塩水で洗う方法です。好酸球性副鼻腔炎ではムチンと称される粘稠性の高い鼻汁が粘膜に悪影響を及ぼすとされています。
したがって、できる限り鼻腔内にムチンが貯まらないように洗い流すことが効果的であることが知られています。参考文献❹

好酸球性副鼻腔炎の手術療法

 

手術の適応

好酸球性副鼻腔炎は治りにくい疾患であり、保存療法で根治に導ける有効な治療法は存在しないとまで言われています。参考文献❺
まだ軽症であれば薬物療法を第一選択として行われますが、中等症以上には内視鏡下副鼻腔手術を施行し術後の洗浄なども局所治療で制御する事が求められます。参考文献❻
特に

  • 鼻の中に鼻茸(ポリープ)が多く存在する
  • 嗅覚障害がある
  • 気管支喘息のコントロールが不良である

などは手術が必要な状態とされています。

手術の方法

好酸球性副鼻腔炎もそれ以外の非好酸球性副鼻腔炎も現在はほぼ内視鏡下で行う副鼻腔手術(ESS)が主流となっています。
好酸球性副鼻腔炎におけるESSでは

  • 換気、排泄の改善のみではなく病的粘膜の除去と大きく鼻腔に交通させる
  • 嗅裂(臭いの神経が存在し、におい分子が通る場所)の処理
  • ムチンと称される粘調な分泌物の除去
  • 必要に応じた鼻中隔の矯正

が重要なポイントです。すなわち鼻水の中に好酸球が多数存在して極めて粘調な、時にはニカワ状の粘液が大量に貯留して、それに接した粘膜が高度に腫れるのが特徴ですので、単に副鼻腔の換気を改善したり、排泄を促すだけでは改善しません。従来の副鼻腔炎は換気障害が主な原因と考えられており、鼻の中と副鼻腔の交通をつけるだけで改善すると考えられていましたが、好酸球性副鼻腔炎では病的粘膜をできる限り除去する事が必要で副鼻腔を大きく一つの空洞として拡大することが求められます。
また嗅裂と呼ばれる鼻中隔に接した隙間に炎症が起こりやすいのも好酸球性副鼻腔炎の特徴であり、嗅神経を傷つけることなく、その部位をきれいにする事も必要です。そのためには鼻中隔が弯曲している場合はその矯正術もあわせて行う必要があります。
これらの手術を的確に行うには高度な技術や経験が求められ、ポリープで充満しているような場合は、現在術者がどこを触っていて、どの方向に向かっているかをサポートしてくれるナビゲーションシステムが安全性向上のためには有用です。
当院でも重症例にはナビゲーションを用いてより安全に施行しています。

副鼻腔手術(ESS)について

手術成績

好酸球性副鼻腔炎は体質的な疾患ですから喘息や糖尿病と同じく完全に治癒するとは言えません。
ガイドラインでも1年で20%が再発しその後1年ごとに5〜10%が再発、6年では半数が再発するとの研究結果が報告されています。
ただ、やはり喘息や糖尿病と同様に良好にコントロールされていれば日常生活は大きく改善されます。すなわち、多少の粘膜の腫れや鼻水があっても最低限度の薬や鼻洗浄などで生活上に支障がなければQOL(quality of life:生活の質)は大きく改善していると言えます。

当院の手術成績

ここでお示しするのは2015年に論文で報告した、好酸球性副鼻腔炎の手術成績で、当時の副院長:河本光平医師が筆頭著者としてまとめたものです。参考文献❷
全国的にも論文として公に認められた手術成績を公開している施設はほぼなく、参考にして頂けると思います。
対象は当院で院長:川村が執刀して術後1年以上経過した74例中、再発の有無を確認できた53例(21例:28%は脱落)で、そのうち34例は自覚症状・QOLのアンケートにも回答を頂きました。
検討した項目は以下の通りです。
内視鏡で副鼻腔を観察して再発の有無を評価した。
再発した症例としていない症例では手術前にどのような違いがあったのか検討した。
手術前後で自覚症状・生活の質((QOL:quality of life)がどのように変化したかを検討した。
評価はステロイドの投与を少なくとも1ヶ月以上空けた時点としましたが、実はこの事は非常に重要です。ステロイドを投与すると数週間はかなり良い状態になりますので、投与まもなくの評価だと実際よりいい結果がでて出てしまいます。一か月以上空けているということはかなり厳し目に評価していると言えます。
自覚症状は

  1. 鼻づまり
  2. どろっとした鼻水
  3. 鼻がのどへ流れる
  4. 頭痛
  5. 体のだるさ
  6. においの低下

生活の質(QOL:quality of life)は

  1. 勉強・仕事・家事への支障
  2. 日常生活への支障
  3. 思考力の低下
  4. 睡眠障害

をアンケートで評価しています。

結果、内視鏡所見で

  • A:粘膜がほぼ正常な状態を良好群
  • B:粘膜の一部が腫れている状態をやや良好群
  • C:鼻茸(ポリープ)を認める状態を再発群

として評価すると

  • A:良好群17例(23%)
  • B:やや良好群20例(27%)
  • C:再発群16例(22%)

でした。

図1 手術成績
※画像クリックで拡大できます。

再発群は良好群と比較的して、手術前の鼻茸が大きく、CTの病変が高度でした。症例全体では自覚症状と生活の質は手術前に比べて改善を認めました。再発群では「どろっとした鼻水」の改善度が低かったですが、それ以外の「鼻づまり」、「鼻がのどへ流れる」、「頭痛」、「においの低下」は手術前に比べて改善を認めました。(図1)
すなわち、経過のよいA良好群や、Bやや良好群ではもちろん、C再発群においても多くの自覚症状や生活の質は改善しており、好酸球性副鼻腔炎における手術の意義は大きいと結論づけられました。

好酸球性副鼻腔炎の術後治療

好酸球性副鼻腔炎は再発しやすい疾患であり、それ防ぐためには術後治療は必須です。ステロイドなどの内服療法は保存的治療とほぼ同様ですが、術後は創部が開放されているため、副鼻腔に直接薬剤を投与したり洗浄したりする事が可能です。これが他の腹部の手術や頭部の手術と異なる部分で手術による利点とも言えます。それゆえ、術後治療は大切です。

薬物療法

ここで述べる薬物療法は内服療法です。主にステロイドですが、手術直後から徐々に減らしながら投与し、状態がよくなれば一旦中止。その後悪化時に短期間投与、あるいは少量を持続的に投与する事が一般的です。
ただ、どの程度の量からどれくらいの期間で減量するのか、悪化時の投与量や期間などは報告者によってまちまちで、現時点では統一された見解がないのが現状です。いずれにしても副腎皮質ホルモンの数値などを確認しながら副作用が出現しない範囲での投与が必要です。
その他、抗ロイコトリエンや抗ヒスタミン剤も喘息やアレルギー性鼻炎の合併時には有用です。
また、風邪の後などで細菌感染が起こった場合は抗生剤も一時的には必要です。

副鼻腔洗浄

保存的療法でも鼻洗浄はある程度効果が期待できますが、術後は副鼻腔が大きく開放されているのでさらに有効です。
好酸球性副鼻腔炎ではムチンと呼ばれる粘液が副鼻腔に貯まることが悪化の原因となりますので、洗浄はむしろ必須の術後治療です。
ご自身で1日2回ほどしていただくと効果的です。

局所療法

副鼻腔に直接薬剤などを投与する方法です。前述したように直接手術した部位の処置ができることが副鼻腔手術の大きな利点でもあります。
最近よく行われるのは粘膜が腫脹した部分に局所停滞性の高いステロイド液を特殊な綿に浸して留置する方法です。軽度な粘膜の腫脹であればこの方法で改善しますし、嗅覚低下の時にも有効です。

吸入ステロイド(ICS)
経鼻呼出療法

これも一種の薬物療法ですが、喘息治療で用いられる吸入ステロイドを呼気時に口からではなく、鼻から吐く方法です。参考文献❼
一般的な点鼻ステロイドは鼻腔前方に吸着するために副鼻腔への効果は期待できないのに対し微粒子ステロイドを鼻から呼出すると鼻の後方から副鼻腔へ到達します。ステロイドの投与量を増やすことなく上・下気道ともにコントロールが期待できる一石二鳥の方法です。

参考文献

  1. 川村 繁樹
    診療所における好酸球性副鼻腔炎の診断 耳鼻咽喉科床, 2013, 106 巻, 5号, p.431-437
  2. 河本 光平・川村 繁樹
    好酸球性副鼻腔炎に対する内視鏡下副鼻腔手術の有効性
    日鼻誌 54 ⑷:519 ~ 525,2015
  3. 藤枝 重治、坂下 雅文、徳永 貴広、ほか
    好酸球性副鼻腔炎診断ガイドライン(JESREC Study). : 日本耳鼻咽喉科学会会報 118:728-735, 2015
  4. 山崎 一樹
    好酸球性副鼻腔炎の効果的な治療法-私の治療戦略
    千葉大学附属病院耳鼻咽喉科 ENTONI (209): 51-55, 2017
  5. 朝子 幹也
    有効な保存的治療の方法と外科的治療のタイミング ENTONI29:19-23.2017
  6. 鴻 信義
    好酸球性副鼻腔炎の手術治療(1)ENTONI16:28-33,2009
  7. 小林 良樹
    鼻副鼻腔疾患と気管支喘息の診断と治療
    呼吸器内科の立場から ENTONI (1346-2067)197号 Page49-55(2016.09)

 

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監修医師

医院名 医療法人 川村耳鼻咽喉科クリニック
院長名 川村繁樹
資格 医学博士
関西医科大学耳鼻咽喉科・頭頚部外科 特任教授
身体障害者福祉法第15条指定医
川村繁樹