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鼻中隔弯曲症の治療と手術内容

鼻中隔弯曲症とは?

鼻の穴(鼻腔)は、軟骨と骨で構成される鼻中隔によって左右に分けられています。
鼻中隔弯曲症とは、鼻中隔が曲がったり突出したりすることで、鼻づまりをはじめとするさまざまな症状が現れる病気のことです。
弯曲の仕方は人それぞれで、S型・C型・トゲ型など、さまざまなタイプがあります。

成人の80~90%は鼻中隔が曲がっているといわれ、弯曲自体は特別なことではありません。しかし、日常生活に支障をきたす症状が現れたときには、鼻中隔弯曲症と診断され、治療が必要となります。

鼻中隔弯曲症の症状

鼻中隔弯曲症の症状には次のようなものがあります。

  • 鼻づまり
  • 鼻出血(一方の鼻の穴からだけのこともある)

鼻づまりが原因の頭痛やいびきが起こることもあります。
また、睡眠時無呼吸症候群、副鼻腔炎や滲出性中耳炎を併発することもあります。

鼻中隔弯曲症などの頑固な鼻詰まり

鼻閉、くしゃみ、鼻汁の中には薬やレーザー手術、ラジオ波手術だけでは効果が期待できない場合も少なくありません。
当院ではそのような方に対するより根本的な手術を日帰り、あるいは提携病院において1泊の短期入院で行っております。

鼻中隔弯曲症や下甲介の肥大が原因の場合は、1時間程度の外来日帰り手術をおこなっており、95%以上の方が鼻閉改善に満足されています。

正常の鼻

正常の鼻

図1の赤の点線内が鼻の中です。イラストでは空気を青で、粘膜を黄色で、骨を白で示しています。鼻の中には鼻中隔や下甲介、中甲介といった構造物がありますが正常では赤の枠の中に十分に空気の青い部分が存在します。(実際のCTでは黒い部分が空気です。)
赤枠の中で青い部分が多いほど良く通る鼻といえます。

詰まりやすい鼻

詰まりやすい鼻

一方、鼻詰まりを起こす原因として

  • 鼻中隔の弯曲
  • 下甲介の骨肥大・粘膜肥大
  • 中甲介蜂巣

などの鼻の構造上の問題があります。
図3では鼻中隔弯曲と右の中甲介蜂巣、右下甲介の粘膜肥大、左下甲介の骨肥大が認められます。鼻中隔の弯曲は成長とともに曲がってくるものであり成人の5割以上に認められますが弯曲が強いときは鼻閉の原因となります。中甲介蜂巣は発生の段階で本来一枚の板状の骨である中甲介の中に空気が入って風船状に膨らんでしまうものです。
下甲介の腫脹はアレルギー性鼻炎などで起こります。点鼻薬などで薬が効いている間は腫れが引きますが薬が切れると再び腫れてきます。

鼻中隔弯曲症の原因

成長過程の中で生じるケース

鼻中隔は、鼻中隔軟骨・篩骨正中板(しこつせいちゅうばん)・鋤骨(じょこつ)と呼ばれる3つの骨で構成されています。
それぞれの骨は、微妙に成長速度が異なります。3つの骨に発育の差が生じることで、バランスが崩れ、鼻中隔が弯曲します。
この弯曲は、10歳ごろから徐々に現れます。
弯曲がわずかであれば問題ありませんが、弯曲が強くなると、片側の鼻腔が狭くなることによってさまざまな弊害が起こる場合があります。

外傷によって生じるケース

鼻の打撲や骨折など、外傷が原因で鼻中隔が弯曲することもあります。

鼻中隔弯曲症の治療方法

対症療法

弯曲が軽く、時折鼻がつまるだけという場合や、高校生未満の場合は対症療法が選択されます。
症状に合わせて、抗ヒスタミン・抗アレルギー・ステロイド・抗炎症薬・抗生物質などを点鼻や内服で使用します。

手術療法

骨の弯曲や肥厚の程度が強い場合、薬が効かないために鼻中隔矯正術や粘膜下下鼻甲介切除術が適応になります。
これらの手術は余分な骨を除去するものでほぼ永久的な効果が見込まれ日帰りでも可能です。
鼻中隔弯曲症に対しては、弯曲している部位の骨を切除する『鼻中隔矯正術』が有効です。
また、鼻中隔弯曲症はアレルギー性鼻炎を併発している事が多く、アレルギーによって下鼻甲介という鼻粘膜が肥大して鼻腔が狭くなっていることも少なくありません。こうした場合には『粘膜下下鼻甲介切除術』も同時に行っていきます。
どちらの手術も鼻粘膜を残したまま余分な骨を除去するため、鼻の機能が失われる心配はなく、出血もそれほど多くありません。
粘膜を切除する手術の場合、数年で粘膜が再生し元の状態に戻ってしまいますが、この手術では余分な骨を切除するためほぼ永久的な効果が期待できます。

鼻中隔矯正術

曲がっているほうの鼻中隔の粘膜を切開して、粘膜と軟骨、骨を剥離していきます。
鼻中隔の軟骨を切開して、もう片方の鼻中隔の粘膜・骨・軟骨も剥離させます。
両方の鼻中隔粘膜や軟骨が分かれている状態で、最初に切開をしたほうの穴から、曲がっている軟骨や骨を切除して縫合します。
曲がってしまった軟骨や骨を切除すると、鼻中隔がまっすぐに矯正されます。
これにより、鼻づまりや口呼吸、いびきなどの症状の改善が期待できます。
鼻粘膜が肥大している場合には、肥大した粘膜の下にある骨を切除する手術(粘膜下下鼻甲介骨切除術)を行うこともあります。

鼻中隔矯正術

粘膜下下甲介骨切除術

下甲介は最も大きい粘膜で、その中央には下甲介骨という骨が通っています。
粘膜を切開して粘膜と下甲介骨を剥離させます。切開した部分から余分な下甲介骨を切除します。
その後、縫合すると下甲介が押しつぶされて空気の通り道が広くなることで、鼻づまりや口呼吸、いびきなどの症状の改善が期待できます。
また、アレルギー反応も起こりにくくなります。

粘膜下下甲介骨切除術

特徴

  • 粘膜を保存する手術ですので鼻の機能が温存され出血も多くありません。
  • 切開は鼻の中で行いますので外に傷はつきませんし、見た目の鼻の形も変わりません。
  • 高度のアレルギー性鼻炎を併発している方には後鼻神経切断術を同時に行う事も可能です。
  • 局所麻酔で1時間半ほどで終了します。副鼻腔炎を併発している場合には内視鏡下副鼻腔手術(ESS)も同時に行います。その場合には1泊の全身麻酔手術で行うこともあります。

鼻中隔矯正術・粘膜下下甲介骨切除術の
手術成績

最新の鼻中隔弯曲症の手術

 

鼻中隔の構造

主な構造物は鼻中隔軟骨と篩骨垂直板(しこつすいちょくばん)、鋤骨(じょこつ)ですが骨の成長とともに脳の重さが加わって互いの接合部でひずみが生じて曲がると言われています。(図1,図2)

鼻中隔の構造
図1
鼻中隔の構造
図2

以前の手術

以前の手術
図3

この曲がりによる鼻づまりを治すために弯曲部を摘出するのですが、一昔前まではできる限り広範囲に摘出していました。
ところが、この方法では鼻背部が落ち込む鞍鼻や鼻尖部が変形する危険性があることがわかってきました。(図3)

近年の鼻中隔矯正術(図4)

近年の鼻中隔矯正術(図4)
図4

近年では見た目の変形を防ぐためにできる限り鼻中隔軟骨は温存する傾向にあります。
L-strutと呼ばれる鼻背(鼻すじ)、および鼻尖(軟骨の先端)から10~15mmを残し、ピンク色の鼻中隔軟骨部分も大部分は温存します。
弯曲が残る場合は図のように浅い切れ目を入れて弯曲の矯正をします。(図4)

実際の手術方法

実際の手術方法

STEP1

左右どちらか(通常は凸側)の鼻中隔粘膜面に軟骨先端から1~2cmの部位で切開を入れます(killianまたはmodified killian切開)
粘膜は薄いのですぐに軟骨表面に達しますが、軟骨と粘膜の間を剥離します。

STEP2

軟骨を先端から1~2cm残して反対側の粘膜を傷つけないようにして切開します。反対側も軟骨と粘膜の間を剥離します。

STEP3

軟骨部の上方の大部分を残して篩骨正中板、鋤骨の接合部で弯曲が高度な部分を切除、摘出します。
鼻中隔の前方、後方、上方、下方はフレーム状に温存されます。

STEP4

温存した軟骨部に弯曲が残存する場合は割線を入れて矯正します。
切開部を吸収糸で縫合します。糸は数ヶ月で自然と吸収されるので抜糸の必要はありません。

鞍鼻(鼻すじの変形)に
注意が必要な場合(図5)

鞍鼻(鼻すじの変形)に注意が必要な場合(図5)
図5

鼻中隔軟骨と篩骨垂直板の接合部が鼻骨に付着している部位をkey stone areaと呼びますが、接合部が鼻骨の先端に近い場合、軟骨を上方まで切除すると鼻背部が陥凹して鞍鼻になる危険性があります。
このような場合は上方の操作をより慎重にする必要があります。❶

前方の弯曲が高度な場合
(図6)

前方の弯曲が高度な場合(図6)
図6

一般的な手術時の切開線は皮膚と粘膜の移行部か、ややその前方のKillianあるいはmodified Killianと呼ばれる部位から始めます。
ただ、その場合は切開部より前方にある軟骨の先端部分の弯曲は矯正できません。従って軟骨が先端部から弯曲している場合は先端部が確認できるhemitransfixionと呼ばれる切開で軟骨を先端部から粘膜と剥離します。(図6)

batten graft(図7)

batten graft(図7)
図7

その上で必要に応じて前鼻棘で軟骨を切離し、割線を入れて矯正したのち、batten graftと呼ばれる軟骨を縫合固定して補強します。(図7)

open septorhinoplasty(図8)

open septorhinoplasty(図8)
図8

外鼻(鼻すじ)や鼻入口部の変形を伴う時には鼻の外に切開を入れる場合もあります。❷
図は逆v字切開で破線部は鼻腔内での切開線を示します。逆v字切開部から皮膚を持ち上げて鼻中隔軟骨や鼻翼軟骨を見ながら手術を行います。
基本的には入院が必要で複数の医師で行う手術でもありますので当院では行っておりません。
大学病院などへの紹介となります。

鼻中隔弯曲症の手術に関するQ&A

手術はすべて局所麻酔ですか?痛みはありますか?

鼻中隔の手術はほぼ局所麻酔の日帰りで行います。
鼻づまりでお困りの方はアレルギー性鼻炎に伴う下鼻甲介の肥厚やくしゃみ、鼻水も多いので、下鼻甲介手術や後鼻神経切断術を同時に施行する事がほとんどですが、その場合も局所麻酔で行います。
手術中は局所への麻酔とともに点滴から鎮静剤と鎮痛剤を投与しますので少しうつらうつらとした状態で手術を受けていただきます。半分眠った状態ですので、痛みや恐怖感も感じにくいと思います。痛みが心配な場合や、恐怖感が強い場合は全身麻酔での手術も考慮します。
以前行った検討では9割の方が局所麻酔の日帰りでよかったとお答えいただいています。❸

手術後はすぐに仕事や運動はできますか?

日帰りの手術といっても内容は入院で行う手術と同等です。従って危険性も同様にありますし、安静もある程度は必要です。
危険性として問題になるのは術後の出血です。術中にほとんど出血がなくても術後1~2ヶ月の間は出血の危険性は皆無ではありません。
デスクワーク程度であれば1~2日後から可能ですが肉体労働は1週間弱様子を見てから行ってください。
以前に行った検討では当院での術後平均3日で日常生活に復帰されています。❸
ただし、激しい運動や飛行機は基本的に1ヶ月以上避けてください。

手術後すぐに鼻は通りますか?

手術当日は鼻に詰め物をして帰宅していただきます。手術翌日(休診日の場合は翌々日)に抜きますが、詰め物を抜くと一時的にはすごく鼻が通ると思います。
ただし、鼻の粘膜は手術で触られた影響で腫れますので、その日の晩には詰まってきます。
また鼻水と血が混じった分泌物がゼラチン状にたまりますので1週間程度はかなり詰まります。1週間過ぎると粘膜の腫れはおさまってきて、分泌物も減ってくるので徐々に鼻は通ってきます。その後もかさぶたによる鼻づまりはありますが日にちとともに改善していきます。
なお、鼻の中の粘膜は腫れても顔自体はほとんど腫れません。

前方の曲がりが強い場合は手術できませんか?

前方の曲がりが強い、すなわち前弯が高度な場合はしっかり治そうとすれば前述したhemitransfixion切開でbatten graftと呼ばれる補強用の軟骨で縫合するか、open septorhinoplastyを行う必要があります。
両者とも基本的には入院が必要となる手術ですので当院では行っておりません。
ただ通常のkillian切開で行う手術でも下鼻甲介を小さくする手術を併用することで十分鼻づまりが改善する場合もありますので、その場合は当院でも日帰りで手術は可能です。いずれにするかは拝見してのご相談になります。

危険性や合併症は?臭いは悪くなりませんか?

危険性は1%あるかないかの術後の出血が主です。術後1~2ヶ月の間は出血によって処置が必要となる可能性はあります。
ただし、外来でつめ物をしたり出血部位を焼く事によりほぼ止血します。それ以外は鼻中隔の粘膜に穿孔ができる場合もあります。
術中に損傷しなくても術後感冒などをきっかけに穿孔する可能性もあります。ただほぼ無症状で外見は変わりません。嗅覚に関しては術後一時的に鼻づまりがある間はやや鈍くなるかもしれませんが臭いの神経はさわりませんので、鼻づまりが改善すれば嗅覚も改善してきます。

遠方からでも手術は可能ですか?

遠方からお越しいただいても手術はできますが、術後処置を行う必要性と、緊急時の対応の問題から、手術当日は近隣にお泊まりいただきます。
また基本的には当日は付き添いが必要です。術後の加療もできれば執刀者が行う方が望ましいのでできる限る受診してください。手術翌日と1週後、1~2週後、2~3週後と間隔を開けていき、通院不要となるのは約2ヶ月後です。
通院が困難な場合はお近くの先生に紹介します。

鼻中隔弯曲症の手術費用

鼻中隔矯正術 24,690円
粘膜下下甲介切除術
(片側)
19,860円

すべての手術に健康保険が適用されます。
片側とあるのは一側あたりの費用です。多くの場合は両側同時に行いますのでこの2倍の費用になります。
手術費用以外に術前の検査料、再診料、術後の薬剤料が加わります。

手術後について

手術後は、特殊な綿状の詰め物で患部を圧迫し、出血を防ぎます。傷口からの感染を防ぐために、抗生物質を処方します。
当院では、1時間程度の外来日帰り手術を行なっており、95%以上の方が鼻閉改善に満足されています。態に戻ってしまいますが、この手術では余分な骨を切除するためほぼ永久的な効果が期待できます。

参考文献

  1. 飯村 慈朗
    鼻中隔手術 鼻閉に対する術式の変遷(総説)
  2. 児玉 悟
    鼻中隔矯正術と外鼻形成術 ―鼻閉に対する Septorhinoplasty― 日耳鼻 118:1406~1413,2015
  3. 川村 繁樹
    局所麻酔下の鼻中隔下甲介日帰り手術の検討 耳鼻臨床 100;655~661, 2007

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監修医師

医院名 医療法人 川村耳鼻咽喉科クリニック
院長名 川村繁樹
資格 医学博士
関西医科大学耳鼻咽喉科・頭頚部外科 特任教授
身体障害者福祉法第15条指定医
川村繁樹