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鼻中隔矯正術・粘膜下下甲介骨切除術の手術成績

鼻中隔矯正術・粘膜下下甲介骨切除術の手術成績

鼻中隔矯正術・粘膜下下甲介骨切除術の検討ここでは当院で局所麻酔下、外来日帰り手術として行っている鼻中隔矯正術・及び下甲介手術の成績をお示しします。この内容の大部分は平成18年の日本鼻科学会で「当院における外来日帰り鼻中隔矯正術・下甲介手術の検討」という演題で発表し、平成19年には「局所麻酔下の鼻中隔・下甲介日帰り手術の検討」との論文名で報告もしております。
ホームページの「手術成績」でも述べましたが、欧米では手術の7割以上は日帰り手術です。反面、日本では個人病院ではもちろん、大病院でもまだまだ日帰り手術は浸透しておらず、鼻中隔・下甲介手術に関しては過去に報告がありません。その理由として日本では病院経営上の問題や手術を受けるには入院が当然といった風潮があることが指摘されています。しかし手術の安全性や効果で問題がなければ患者さんの経済的負担や早期日常生活への復帰という観点から大いにメリットがあります。私自身、勤務医時代から1泊での手術経験は多数ありその時の感触から鼻中隔・下甲介手術は日帰りでも安全性は高いという実感がありました。そのような経緯から週に2~3例の日帰り鼻中隔・下甲介手術を行っており、その成績と安全性を検討いたしました。ここで、その一部をご紹介します。
なお、症例数や有効率、出血率などの一部の数値は更新時の値に適時変更しております。
2005年2月から2008年12月までで施行した日帰り鼻中隔・下甲介手術は249例で今回検討対象としたのは術後アンケートで回答の得られた30例、年齢は19歳から51歳、平均36歳でした。
術式は鼻中隔矯正術と粘膜下下甲介骨切除術の両者を施行したのが19例、鼻中隔矯正術と下甲介の骨折のみに留めたものが8例、鼻中隔矯正術のみが2例、粘膜下下甲介骨切除術のみが1例でした。
尚、約半数の症例で同時に下甲介粘膜焼灼術を同時に施行しております。術式の詳細は「手術の紹介」の「内視鏡下鼻腔形態改善術」および「鼻粘膜焼灼術」をご覧下さい。
手術の方法は全身麻酔で行うものとなんら変わりはありません。手術時間は約1時間で術後2時間ほど安静にして出血や痛みがないことを確認して帰宅、遠方の方の場合は近隣のホテルに宿泊していただきます。手術後は止血目的で鼻の中にに特殊な綿やスポンジを詰めますが基本的に術後2日で抜きます。
現在までの45例では術中、術後ともに問題となるほどの出血はなく、疼痛や発熱などの他の合併症を含めても緊急処置や緊急入院を要した方はおられませんでした。
図1に手術の成績を示します。症状が手術前に比べて消失したものと著明に改善したものを有効としますと鼻づまりに関しては96%の有効率でした。この成績は過去に行った全身麻酔下手術に勝るとも劣らない成績です。くしゃみと鼻汁に対する成績が低いように思われますが今回の手術は鼻づまりを主な対象としております。くしゃみと鼻汁が主症状の場合は後鼻神経をターゲットとした別の手術を行います。

表1に術中、術後の状態をアンケートした結果を示します。

まず、疼痛に関してですが「全く痛くなかった」が10%、「少し痛かった」が57%でした。また「かなり痛かった」が33%認められましたが疼痛のため手術を遂行できなかった方はおられませんでした。この「かなり痛かった」と答えられた方はほとんどが初期の頃の手術で局所麻酔薬のみで手術を行っていた方です。最近ではより痛みを少なく、安らかに手術を受けていただく目的で鎮静剤を使っており、それ以後は強い痛みを訴えられる方はほとんどおられません。
術後の出血量に関しては患者さん本人の予想よりも「かなり少なかった」と「やや少なかった」を合わせて57%と、過半数が予想よりも少なかったの回答でした。
術後の発熱に関しては「ほとんどなかった」が47%、と「微熱程度」が33%で8割は問題となる発熱がありませんでしたが鼻の詰め物を抜く2日目まで38度を超える発熱が3例の10%認めました。
人間の体はいかなる手術でも手術のダメージ(医学的には手術侵襲といいます)がかかると程度の差はあれ発熱するのが生理的な反応ですが、8割が微熱程度以下というのは様々な手術の中では低い方だと思われます。

表1:術中・術後の症状
疼痛 まったく痛くなかった 少し痛かった かなり痛かった 痛くて我慢できなかった
10% 57% 33% 0%
出血 かなり少なかった やや少なかった やや多かった かなり多かった
37% 20% 30% 13%
発熱 ほとんどなかった 微熱程度 やや高めだった 38度以上だった
47% 33% 10% 10%

日常生活への復帰までの日数図2に仕事や日常生活への復帰までの日数を示します。術後2日目が最も多くて30%、翌日が27%で過半数が術後2日以内に日常生活に復帰しており全例での平均では術後3日目でした。この手術の場合、全国的には1週間から10日の入院が平均的ですので術後3日目で社会復帰できるというのは日帰り手術の大きな利点だと言えます。ただし、復帰までの日数は仕事の内容にも左右されます。デスクワークが中心の場合には2〜3日でほぼ大丈夫ですが汗だくになるような肉体を駆使するような仕事の場合にはもう少し休業が必要でしょう。アンケートの4日目以降と答えられた方の多くはそのような仕事でした。

表2:今回の結果を他の報告と比較してみました。日本では過去に日帰りの鼻中隔手術の論文はありませんので海外の論文との比較です。なお当院のデータは2008年12月時点のものです。

日本では鼻の術後は数日間は詰め物をするのが当たり前ですが、なぜか欧米では全麻、タンポン(鼻の詰め物)なしが一般的です。どうも欧米人はタンポンを詰められることに我慢ができないらしく術後2時間位で抜くことが多いようです。そのためか手術も鼻中隔矯正術単独が多く下甲介手術の併施は少ないようです。すなわち触る範囲を減らしてなるべく出血を減らそうとの意図でしょうがその割には出血率が高く、それに応じて予定外入院率も高くなっております。私個人の考えでは鼻中隔矯正術単独では充分に鼻閉が改善されない方も少なくありませんので必要であれば下甲介手術も行い、その分ちゃんとタンポンを詰めるほうが出血率も予定外入院率も低くなると思います。それでも術後2日でタンポンが抜去でき、平均3日で社会復帰できるのですから。

表2:他の報告との比較
  麻酔 鼻の詰め物 出血率 予定外入院率
Genesan 全麻163例 なし 13.4% 13.4%
Hogg 全麻142例 なし 0.7% 4.9%
Benson 全麻163例 なし 4.0% 4.0%
Srinivasan 全麻48例 なし 9.5% 11.4%
局麻48例 なし 9.5% 11.4%
Nieminen 局麻60例 あり 0.0% 1.0%
川村 局麻249例 あり 0.8% 0.0%

日帰り手術の希望

まとめ

局麻下、日帰り鼻中隔・下甲介手術を施行した症例の手術効果、術後の症状、安全性を検討した。
249例全例で無事手術が遂行でき、術後緊急入院を要した症例は認めなかった。
2例(0.8%)で術後2~3週目の遅発性出血を認めたが外来処置で止血し得た。
術後平均3日で日常生活に復帰しており、全症例の9割が局麻日帰り手術を支持していた。
局麻下鼻中隔・下甲介手術は安全性も高く、日帰り手術として適していると思われた。

2009年4月~2019年4月の
手術成績

上記の手術成績はやや古いデータですので2009年以降、2019年4月まででアンケートにご協力いただけた649例もの大量のデータをお示しします。
以前のものと比べてやや表示方法が変わっております。「悪化」例はありませんでしたので検討項目から削除し、「日常生活の支障度」を追加しております。
結果としては鼻づまりは90%の方が症状「消失」あるいは「著明改善」で「日常生活の支障度」も92%の方が著明改善以上でした。
一方でくしゃみ、鼻汁はそれぞれ69%、55%とやや満足度が低いようにも思えますが、この傾向は以前の検討と同様です。やはりこの手術は鼻づまりを主な症状とされる方を対象としており、その意味で鼻づまりが改善されれば日常生活の支障度も改善しており満足度は高いように思えます。
くしゃみや鼻汁の症状が強い方には後鼻神経切断術を施行致します。

2009年4月~2019年4月の手術成績

本当は自筆で感想も多くの方に記入していただいており、本来であればそれも公表してよいと言っていただいているので、ここでご紹介したいところですが、近年の医療関係ホームページの規制によりご呈示することができません。ご希望の方には来院時に個人情報が特定できない形で閲覧していただくことは可能です。

監修医師

医院名 医療法人 川村耳鼻咽喉科クリニック
院長名 川村繁樹
資格 医学博士
関西医科大学耳鼻咽喉科・頭頚部外科 特任教授
身体障害者福祉法第15条指定医
川村繁樹