学会発表や論文作成がどうして
患者さんの役に立つのか
学術活動の再開
2020年のコロナ禍以降、医療分野での学会開催などは大幅に制限されていました。
学会そのものが中止になったり縮小されたり、開催されてもオンラインが中心で実際に対面しての討論を行う機会はめっきり減りました。
その間、私も学会に参加できず発表の機会も減っていましたが昨年後半ころからコロナ禍もピークを過ぎ、ようやく通常の形で学会が催されるようになりました。
それを機に昨年は全国的な学会で3度発表をし、そのうち2報を原著論文として投稿、採択されました。
論文の作成
他のブログでも触れましたがこの「好酸球性副鼻腔炎に対する手術成績と再発例の検討」と「短期滞在で行う粘膜下下甲介骨切除術・後鼻神経末梢枝切断術」は開業以降、ずっと継続して行ってきた手術の成績や安全性、患者さんの評価をまとめたもので私の一種ライフワークとも言っても過言ではないと思います。
臨床治療の善し悪しは短期間の結果ではあまり正当な評価はできず、また少ない症例数でも論文として認めてもらえません。多数の患者さんに対する長期間の解析ではじめて各大学の教授を含めた専門家にも認められます。
そのため開業して約20年でようやく結果をまとめることができましたし、それが耳鼻科専門誌でも最も読者数の多い耳鼻咽喉科頭頚部外科学会誌に掲載されたことは私が行ってきた手術治療が耳鼻咽喉科学会において正当に評価されたことだと感じています。
原著論文とは
好酸球性副鼻腔炎100例以上で3年以上、アレルギー性鼻炎・鼻中隔弯曲症で100例以上で6年以上の臨床成績を論文にまとめました。
このような内容は開業医はもちろん、大学病院関連でも報告のないビッグデータですので原著論文として認定されたのかと思います。
原著論文は新規性(オリジナリティ)・有効性・信頼性があり、記述内容がこれまでに報告されておらず、内容に信頼性があることが第三者の専門家により厳格に査読されていることなどが特徴で、不備な部分などを何度も書き直しする必要があり、総説や著書などよりもハードルは高いものです。
論文を書く意義
近頃、周囲の先生に「なぜ、そんなに労力を費やして論文を書くのか?」と聞かれることがよくあります。
確かに大学内で教授を目指しているような先生は、多くの論文を書いて、それが有名な学会誌に掲載されると、それらが点数として業績に加えられます。教授選などではその点数が教授になれるかどうかを左右するので論文作成に意欲的です。
ただ、私のような一般開業医はそんなことは全く関係ありませんので、論文を書くことが直接的に社会的地位や利益に繋がることはなく、むしろ投稿するには時間も費用もかかります。それなのになぜ?と聞かれると「義務と権利だから」と答えています。
義務というのはホームページを立ち上げた時にも書きましたが、手術を行う医者としてはその結果、成績を学会などで公開して第三者の評価を受けるべきだと考えているからです。それによって自分が行っている治療が正しいものかどうか客観的に判断できますし、足りない部分もわかりますので、より良い治療、手術へと進んで行けるからです。そして常に進歩した治療を患者さんに還元する事が手術を行う医師の義務だと考えているからです。実際に私から見ても信頼できる先生、敬意を持てる先生はすべからず積極的に学会発表されていますし、論文も書かれています。だからこそある意味ライバルでありながらも同業者である他の医師からも信頼されるのだと思います。逆にいくら手術件数が多くても学会や論文で成績を発表していない施設は私はあまり信用しません。どのような内容の治療や手術を行っているかわからないからです。
論文が患者さんの利益になる理由
これは自分自身が病院を探す時にも当てはまります。
2年前に鼠径ヘルニアを患った時に、なるべく仕事を休まずに済み、なおかつ安全性の高い医療機関を探しました。やはりネットで「鼠径ヘルニア*日帰り*名医」などと検索して、いくつかの医療機関を比較しました。その中で手術件数も多く、学会や論文の発表も積極的で、なおかつホームページに詳しく治療内容を記載している医療機関を選択しました。その結果、休診にする事もなく、ほぼ想定通りに回復したので、その選択は間違っていなかったと思います。
やはり手術治療を行う医師、医療機関は学会や論文の発表を労を惜しまずに行って、それをホームページなどで患者さんに知らしめることが義務でもあり、それが患者さんにとって有益な情報になると確信しています。
権利というのは論文を書く権利という意味で、これは手術の症例数や経過を観察してきた年数に依存します。いくら自分で素晴らしと思った手術や治療を行っても、その症例数が少なかったり、経過を観察した期間が短かったりすると論文としては認めてもらえない場合が少なくありません。症例数が少なかったり、観察期間が短いと信頼できる成績ではないと判断されるからです。
前述したように好酸球性副鼻腔炎に対する内視鏡下副鼻腔手術100例以上、アレルギー性鼻炎・鼻中隔弯曲症の後鼻神経切断術も100例以上で、それぞれ3年以上、6年以上の観察期間での成績を論文として上梓しましたが、この症例数や観察期間は大学病院などを含めても一医療機関での報告は過去にありません。論文においての検討対象はそれぞれ100例強ですが手術実数は好酸球性副鼻腔炎で2000例以上、後鼻神経切断術で6000例以上あり全国的にもトップクラスです。
このように多くの症例数と観察期間を有しているから論文を書く権利があると言う意味ですが、逆に言えば、だからこそ成績を公にして手術が患者さんにとってどれほど意義があることか示す義務もあると考えています。
この診療スタンスというかポリシーは開業以来変わっていませんが、これからも継続してさらに良い医療、優れた手術を行うために日々研鑽してその結果を公にしていく所存です。
最後に
これらの論文作成において治療成績などのデータ提供を承諾